今回は「ベリル」に関してまとめてみたいと思います。宝石名やパワーストーンでも「ベリル」と聞いても馴染みがない人が多いかもしれませんが、エメラルドやアクアマリンは宝石としてよく知っている人も多いでしょう。

歴史のあるエメラルドやアクアマリンも実は「ベリルの一種」です。そう考えるとこのベリルについて詳しくなっておくと便利そうですね。

まずベリル(緑柱石)は色によって名前が様々に付けられています。最初に紹介しておきます。

  • カラーレス(ゴッシェナイト)
  • グリーン(エメラルド、グリーンベリル)
  • ブルー(アクアマリン)
  • イエロー(イエローベリル、ヘリオドール、ゴールデンベリル)
  • ピンク(モルガナイト)
  • レッド(レッドベリル)

同じベリル種でも色によって8種類ぐらいに名前が分けられているんですね。

上記に載せた宝石は全て化学組成はBe3Al2Si6O18で表されます。化学組成から中にBe(ベリリウム)が入っているのが分かると思いますが、ベリルはこのベリリウム(Be)という元素を含む鉱物の総称として使われています。

クリソベリルは金緑石

宝石にクリソベリルというものがあります。

おっ、こちらもベリルと入っているから緑柱石で化学組成はBe3Al2Si6O18かな?と思うこともありますが、同じくベリリウムを含むものの化学組成が少し違ってBeAl2O4です。鉱物の分類としては結構異なります。

またアレキサンドライトという宝石もありますが、こちらはクリソベリルを同じBeAl2O4で表せる鉱物です。

ベリルの歴史

ベリルの歴史は1798年にフランス人のボークランという科学者が緑色の鉱物結晶からベリリウムを発見しました。そこからベリリウムを含む鉱物をベリルグループに分類して「〇〇ベリル」と呼ぶようになったようです。和名の緑柱石という呼び名も最初に発見した緑色で柱状(六角柱)の鉱石をベリルと呼んだから緑柱石としたのかもしれません。

こうしてベリルという名前の歴史が始まるのですが、これまで緑色のベリルはエメラルドとして非常に親しまれていました。また青色のベリルもアクアマリンとして親しまれていました。

当時、エメラルドをグリーンベリルとして変えてしまうと違和感などもあったということで、宝石名としてのエメラルドやアクアマリンなどはそのまま残り、他の色でもベリルで宝石名としてあったもの(ヘリオドールなど)はそのまま残ったり、違う色のベリルにも宝石名として「ピンクのベリルはモルガナイト」など名付けるようになったようです。

こうして同じベリルBe3Al2Si6O18でも色などによって様々な宝石名が存在するということになります。歴史のある宝石名があるほうが、個人的には素敵だと感じます。名前には霊(たましい)が宿ります。

それぞれの色のベリルを詳しく見ておきましょう。

カラーレス:ゴッシェナイト、ホワイトベリル

ベリルの中で無色透明(色づきがない)ものをゴッシェナイトと呼びます。

なお、完全に無色透明というものはなかなかなく、少し色づいていることが殆どのようです。完全に無色透明の場合をホワイトベリルと呼んだりもしますが、希少性がかなり高いためゴッシェナイト=ホワイトべリルと一緒に呼ぶ人も多いです。

宝石は概ね色がついているものは深みがあって発色が良いものが価値が高いとされますが、無色透明(色が薄い)だからこそゴッシェナイトと呼ばれる石もあって不思議な感じがしますね。

ゴシェナイト[緑柱石(りょくちゅうせき)]- Goshenite

緑(グリーン):エメラルド、グリーンベリル

ベリルの中でもいちばん有名なのがエメラルドですね。世界4大宝石の一つですから知名度は抜群です。

緑色の宝石と言えば「エメラルド」という認識の人も多いでしょう。

このエメラルドの緑色の発色の起因は主に「クロム(Cr)、バナジウム(V)」と言われています。少し「鉄」も影響している部分があって青っぽく見える場合は鉄の影響らしいです。

エメラルドの歴史は古く、古代エジプトに緑の宝石として採掘の記録があります。クレオパトラが愛したとなれば相当歴史があることが感じられます。その長い歴史から世界四大宝石の一つにもなっていますし、現在でも人気の高い宝石です。

なお、グリーンべリルとエメラルドを区別していますが、エメラルドは深い緑色、グリーンベリルは淡い緑色で分けています。深い緑色はクロムの含有が多く、淡い緑色は鉄が多くなった場合とのことです。

グリーンベリルは「ミントベリル」「ライムベリル」と呼んだりもします。

エメラルド(緑柱石)-Emerald

青(ブルー):アクアマリン

青色のベリルをアクアマリンと呼びます。こちらもベリル種で有名な宝石の一角です。

こちらの青は2価の鉄(Fe2+によるもので、この鉄の着色要因で深みのある青から薄い青まで色々あります。

青色の宝石はベリルのアクアマリン以外にもたくさんありますが、名前の通り「水」を連想させる宝石といえばアクアマリン一択でしょう。

アクアマリン(緑柱石)-Aquamarine

黄色(イエロー):イエローベリル、ヘリオドール、ゴールデンベリル

黄色系は色づきによって、「イエローベリル(黄色)」「ヘリオドール(黄緑に近い)」「ゴールデンベリル(濃い黄色)」と差を付けて呼んだりします。ただ明確な基準もないことから、いずれの色合いも違う名前で流通することも多いです。

太陽のベリルで歴史的価値を出したいときはヘリオドール、金のイメージが欲しい時はゴールデンベリル、黄色い幸せ感を出したいときはイエローベリルと名前でイメージが変わるので仕方のないところでしょう。

黄色の色づきは3価の鉄(Fe3+によるもの起こるようです。昔は黄色系のベリルは全て太陽神の意味を持つヘリオドールと呼ばれていたようですが、最近では逆にヘリオドールは昔の呼び方といったイメージがあります。

今はベリルって言う方が正しく紹介しているイメージが強いので「イエローベリル、ゴールデンベリル」として市場に流通しているのが主流です。

なお、加熱処理をすると3価の鉄(Fe3+)→2価の鉄(Fe2+)となることで、アクアマリンの色合いに変化します。このように処理して宝石として知名度の高いアクアマリンとして流通することも多いようです。

ヘリオドール(黄色緑柱石)- Heliodor

ピンク:モルガナイト

ピンク色のものをモルガナイトと呼びます。ピンク色はマンガン(Mn)に起因するようです。

モルガナイトはあの金融系で有名なJ.P.モルガンのモルガンに由来しています。ものすごい資本家はやはり素晴らしいものに惹かれます。宝石収集にも性が出て、終いには新しい宝石にコレクターの名前がついたということですね。

発見されたのも1911年と比較的新しいピンク色のベリルです。

「ピンクベリル」や「ローズベリル」と呼んでいたり、その名残もあるようですが、今はピンク系のベリルはモルガナイトと呼ぶことが多いみたいですね。

モルガナイト-Morganite

赤(レッド):レッドベリル

赤色のレッドベリルもあります。こちらもマンガン(Mn)に起因して赤色です。

最初の発見は1904年、発見者の鉱物学者ビクスビーさんにちなんで「ビスクバイト(Bixbite)」と命名されましたが、当時同じような名前の「ビックスバイト(Bixbyite)」というのものがあり、混乱を避けるためにレッドベリルと改名したようです。

「ビックスバイト(Bixbyite)」は和名ではビクスビ鉱(Mn,Fe)2O3という化学組成。黒色で四角い結晶、金属光沢が特徴。どちらもビクスビーさんがアメリカのユタ州にあるトーマスレンジというところで発見したようです。

なお、ベリル種の中で、このレッドベリルが一番希少性が高く価値も一番高く評価されています。有名なエメラルドよりも高いとのことです。コランダムでもルビーは強いですが、やはり赤は強いですね。レッドエメラルドと呼ぶ人もいるとのこと。

レッドベリル(ビクスバイト)-Red Beryl

ベリル種のまとめ

色によって名前が違うベリル、バラバラに紹介してきたものを表にまとめてみます。

名前 発色要因 特徴
カラーレス ゴッシェナイト 希少
エメラルド(濃い緑)
グリーンベリル(薄めの緑)
クロム(Cr)、バナジウム(V)、鉄(Fe) 世界四大宝石
アクアマリン 2価の鉄(Fe2+) 有名
黄色 ヘリオドール(やや黄緑)
イエローベリル(黄色)
ゴールデンベリル(ややゴールド)
3価の鉄(Fe3+) マイナー
ピンク モルガナイト マンガン(Mn) やや最近
レッドベリル マンガン(Mn) 希少で最高価値

様々な名前で流通しているベリル、同じ仲間というのを知っていると愛着が湧くのではと思います。また、全種類の色のベリルを手に入れて見比べてみるのも良さそうですね。発色に癒やされます。

ベリルの宝石としての評価

ベリル種の中には宝石として有名な「エメラルド」「アクアマリン」が入っているように古くから価値の高い宝石の素材として扱われています。硬度も高く、屈折率も高いことから美しく輝きます。

特にクォリティが高い条件は

  • 大きい
  • 透明度が高い
  • 色づきが深く美しい
  • インクルージョン(内包物)が少ない

といった部分で評価されます。ベリルは結晶の状態でもひび割れが多いことから、特にクオリティの高い宝石質のものはグッと価値が上がります。またベリルは見た目を良くするために人工処理が加われることが一般的です。

代表的な人工処理は、内部に透明な含浸処理を加えて傷っぽさをなくす処理です。アクアマリンは加熱処理をすることで青の良い発色を作ったり、モルガナイトは照射処理でピンクの光の発色を良くする事が出来ます。(トリートメントと言われる)

もちろん未処理の状態で発色など美しい方が貴重で価値が高いとされますが、上記のトリートメント処理程度は宝石界では古くから一般的ですので気にし過ぎないほうが良いでしょう。

ベリルの基礎データ

最後にベリルの基礎データをまとめておきます。

英語名 Beryl
化学組成 Be3Al2Si6O18
硬度 7.5-8.5
比重 2.67-2.77
屈折率 1.583-1.590
鉱物学分類 ケイ酸塩鉱物
結晶系 六方晶系(三方晶系)六方晶系(三方晶系)
へき開 不完全
じょうこん
光沢 ガラス光沢

モース硬度も高く、屈折率も大きい、さらに結晶が柱状(六角柱)で比較的分かりやすく育ちますので、宝石として加工しやすいというのはあるでしょう。

宝石の中でも王道タイプになりやすい要素を含んでいます。宝石質のものは様々なカラーの宝石として、少し濁りがあるものも綺麗な発色をして硬さもあるのでアクセサリーに使いやすいです。鉱石の中でも優等生で価値の高いものとして見られやすいですね。